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アイパートナー

愚直な社長の参謀

 

志誌ジャパニストに連載された「愚直経営のススメ」をご紹介いたします。

全8回ございます。ぜひ、ご覧ください。

 

愚直経営のススメ 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回

第1回 大智は愚の如し

賢と愚

 海外出張から帰国し空港に降り立つと、日本は本当にいい国だと思います。置き引きされる心配もなく、建物は清潔でロードサイドは緑に溢れています。日本は世界有数の安全で安心できる国であることを実感する時です。
 日本では安定・安心が当たり前。その象徴といえるものが、学生の就職先として大企業や公務員が人気だということ。そういう傾向は今も昔も変わりません。
 そのような日本で起業するというのは、最もリスクの高い愚かなことの代表格でしょう。起業しようとしている人がいると家族や周囲の人たちは反対します。リスクを冒しチャレンジするより、安定したレールに乗っかる。失敗して批判されるより、何もせず批評する立場に回る。自分の意志を押し通すより、長いものに巻かれる。そのほうが賢い生き方であるという価値観が支配的です。しかしながら、現実の社会に正解はありません。「人間万事塞翁が馬」と言われるように、世の中は何が災いし、何が福となるか予測できません。
 ここで、生きることにおいて「何が賢で何が愚か」ということを考えてみたいと思います。「愚か」とは、鈍い、考えが足りない、損をする、バカであるということ。「直」とは柔軟性がない、猪突猛進、空気が読めないということです。そして、「愚直」とは、正直ばかりで臨機応変な行動が取れないということ。つまり、不器用で世渡り下手ということです。しかし、「愚直」は、損得を無視し手間を惜しまず、見えないことも大切にする。明確な軸があってブレず、一貫性があって信頼性が高い。常識や周囲の意見に惑わされない。そして、成功するまであきらめない。こんな意味を帯びてきます。
 一方、「愚か」の反意語は「賢い」であり、間違いがないこと、寄り道をしないこと、物事の判断が適切にでき失敗しない確実な方法を選択することを意味します。
 私たちは子供の頃から賢さを求められています。子供が親の言うことをきくと「賢いね」と褒められ、学校のテストでいい点を取ると「賢い」と周りから崇められます。ところが行き過ぎた「賢」は、楽して得を取る、リスクは犯さない、自分は机上で理屈を振りかざし、面倒なことは人にやらせて責任は回避するということにつながりかねません。
 このように考えてみると「賢」と「愚」の意味が一八〇度変わってきます。つまり、愚直とは一見愚かではあるが、信念のある人間の証明であり、それは人生の勝者になる智恵なのではないでしょうか。

 

愚直な経営者とは

 拙著『愚直経営で勝つ! 経営者9人のチャレンジストーリー』に登場する経営者は中小中堅企業のオーナー社長であり、地味でマスコミに取り上げられることはないが、日本を支える中小中堅企業の典型モデルとも言えます。居酒屋で隣にいる少し格好いいオヤジという感じです。この九人の平均社長在位年数は二七年で、最短でも十数年、長い方は四〇年を超えます。つまり任期で交代する大企業の社長を駅伝型社長と言うならば、ここに登場する経営者は生涯経営者であるマラソン型社長と言えるでしょう。ゴールするまで歩いても止まってもリタイアできない人です。成功するまでやり続けることが責任、そんな使命を持っています。大半の人が会社の借金を個人で保証し、万一の場合には一家離散のリスクを抱える覚悟を決めた人でもあるのです。
 大企業のような知名度も財力もない地味な会社ですから、信用を第一として信頼残高を一つずつ積み上げ、社員を家族のように思い、できの悪い社員も見切ることなく大切に育てています。金や人の問題で首の皮一枚の経験に学び、強かで柔軟性と力強さを兼ね備えています。「天地人(天の時、地の利、人の和)」を体得し、信念を持って逃げ出さない人です。人生の波を乗り越えてきた人だけが持つ、優しさ・自信・人生の年輪がにじみ出ています。
 愚直な経営者は金儲けの亡者ではなく、辛酸体験に磨かれた志・謙虚さ・そして寛容さを得た人なのです。

 

経営者は哲学者
 経営を突き詰めるとどこに至るか。その答えは「人の幸せ」でしょう。お金も会社も科学技術も、すべては人が作り出したもの。社会を動かしているのは人。お客様第一でいうお客様は人。商品をつくるのも、サービスをするのも、そして問題を引き起こすのも人。経営を極めるには、人間を深く理解することが肝でしょう。そして、壁に直面し小手先のテクニックではニッチもサッチも行かなくなった時に考えるのは、物事の本質です。人間とは何か、会社とは何か、経営とは何か、ということです。「人間とは何ぞや」を突き詰めることが哲学であるとするならば、愚直な経営者は哲学者であり、同時に社員を指導し人間として成長させていく教育者でもあるのです。

 

再考「日本的家族経営」

 日本を代表するグローバル企業と言えば、トヨタ自動車。トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏らが、豊田佐吉翁の言葉を成文化したのが豊田綱領であり、こう記されています。(トヨタ自動車のホームページより)
【豊田綱領】
一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を拳ぐべし
一、研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし
一、華美を戒め、質実剛健たるべし
一、温情友愛の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし
一、神仏を尊崇し、報恩感謝の生活を為すべし
 至誠・創造・質実・家族・報恩、こういったトヨタの経営哲学は二六〇〇年以上の歴史を持つ、人間を起点とした日本独自の文化を伝承したものだと考えられます。
 アメリカの経営手法が日本に導入されて久しいですが、その科学的な思考と手法は、情緒的で合理性に乏しい日本の経営に革新をもたらしました。ところが、利益第一主義による短期成果の追求は利己主義を増幅し、協調関係も創造性も奪い、ギスギスとした乾いた職場を生んでいます。これで人は幸せになれるのでしょうか。行き過ぎた経済性の追求は、不正などの社会的問題を引き起こしています。また、コーポレートガバナンス(企業統治)という植民地統治を連想させる言葉が闊歩していることに違和感をおぼえるのは私だけでしょうか。人間の尊厳という観点から考えれば、正しいやり方とは思えません。
 社会の原点は家族。潤いがあり一人ひとりが豊かで幸せな人生を育むために、今こそ誠実で家族的な美風を大切にする日本的な経営を見直してみる時ではないでしょうか。

 

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■愚直経営のススメ 全8タイトル
第1回 大智は愚の如し
 
第2回 人間の尊厳を守る 
第3回 愚直経営者の人間的魅力 
第4回 日本ブランドの経営 
第5回 持ち味を研く
 
第6回 閾値超えの戦略
 
第7回 不のエネルギーを活かす
 
第8回 いい人生の物語をつくる

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