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アイパートナー

愚直な社長の参謀

 

志誌ジャパニストに連載された「愚直経営のススメ」をご紹介いたします。

全8回ございます。ぜひ、ご覧ください。

 

愚直経営のススメ 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回

第6回 閾値超えの戦略

一芸に秀でたプロ集団

 愚直さの真骨頂は、なんと言っても自らの決めた道を極めることでしょう。一貫性を持ってトコトンやり続け、突き抜ける。持ち味を研いで卓越したポジションを確立するには、愚直さは欠くことのできないものです。つまり愚直さは成功の秘訣といえるでしょう。
 書店には楽して成功するノウハウ集が所狭しと並んでいますが、残念ながら小手先のテクニックで成功した人にお目にかかったことはありません。また、あれもこれもと「総合化」を掲げた企業は個性を失い、精彩を欠いています。選択と集中を実践し、専門特化した企業が高い収益性を誇っています。つまり、専門分野を絞って一芸に秀でたプロフェッショナルとして勝負をしたほうが、勝算があるというわけです。
 プロフェッショナルとは、「高い専門性と優れた人間性」を兼ね備えた人です。仕事に誠実であり、真理を見極めるまで諦めない強い心を持っています。好きで楽しく得意な領域に没頭没我、未知の領域を究めます。志を立てて明確な方向性を持ち、自ら発憤し、将来を見越した知識や能力を身につけることに余念がありません。素人には見えない深いところも見通せる鑑識眼があります。そして、自分の価値を自覚し、その卓越性を周りの人からも評価され、自分の仕事に自信と誇りを持っているのです。
 また、企業の本来の姿は、自由意志を持った多才なプロフェッショナルの集まりであり、自分の仕事に誇りを持った人が互いに尊敬し合える組織体であるべきなのです。

 

渡り鳥に学ぶ

 企業も社員も豊かになるためには、儲かるビジネスをつくらねばなりません。そのためには、競争の少ない市場で大きな付加価値を生み出すビジネスモデルをつくりあげることが必要です。まさしくブルーオーシャン戦略です。ライバルに「あの会社には到底勝てない」と思わせる突出したレベル、つまり閾値まで到達することが鍵となります。閾値(ティッピング・ポイント)とは、小さな動きが敷居を超えて一気に広がるターニングポイントを指します。その原理は渡り鳥の行動から学ぶことができます。
 渡り鳥はどうしてあんなに小さな体にもかかわらず、何千キロも旅をしていけるのでしょうか。その秘密は、空気が薄く偏西風などが吹く上空一千~一万メートルにあります。渡り鳥たちはその高さに至るまで全力で登ります。しかし、いったん高速の風に乗ってしまうと、時速四〇~七〇キロのスピードで楽々と旅をすることができるのです。しかし、ビジネスの閾値はどこにあるか目には見えないものであり、化学実験のように何度も仮説と検証を繰り返して到達点を探していかねばなりません。
 エジソンは、「発明は九九%の汗と一%のインスピレーションだ」と言っています。また、経営の神様と言われた松下幸之助翁は、「成功の秘訣は、成功するまでやり続けることだ」と言いました。まさに閾値超えは、ひたすらにやり続ける愚直さに与えられるご褒美なのです。
 閾値を超える鍵は、見えないものを探し出す力、つまりプロフェッショナル性にあります。強い好奇心と探究心で専門分野を深堀りするのです。
 私が愛用するアップルのMac book airは二〇〇八年デビュー以来デザインは変わっていません。デザインと機能を極め、陳腐化せず飽きがきません。また、アップルのビジネスや製品にはあくせく感がないのも良いところです。
 スティーブ・ジョブズは尖った独自性の高い商品を開発するにあたって、「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何がほしいのかわからないものだ」と言っています。彼は禅にも造詣が深く、本質をついたシンプルな思考のできる人だったがゆえに、一般人には見えない素晴らしい未来が見通せたのでしょう。競争を意識しすぎ、季節ごとに新製品を出し、疲弊していったライバルメーカーとは根本的に考え方が違うのでしょう。
 チャンスを確実につかみ成功するためには、本質を見極めた周到な準備、変化の兆しを感じ取る高い感度、機を見て一気にエネルギーを注ぎ込む集中力が欠かせません。それは「ビジョンと一貫性」があってはじめて実現するものです。愚直さこそ、持って生まれた天性を孵化させる大事な才能でもあるのです。

 

滲み出る信頼感

 ビジネスで大切なブランドとは単に高級品を指すのではなく、商品やサービス、そして企業に対する信頼感そのものを意味しています。あるいは、内面より滲み出る個性といえるでしょう。作り手の精神が技術や物、サービスに乗り移って放つ輝きでもあります。それは絶対的な価値を生み出すものであり、高い収益の源泉となるのです。
 愚直という言葉には、地味という意味合いがあります。地味とは派手さがなく、質素でムダがない。〝地〟とは本来備わっている性質であり、〝味〟には趣という意味があります。 地味とは外見より内面を大事にして実があり、自分の特性を活かして気品があるということなのです。
 愚直な経営は、実力以上に目立つようなことはしないので誇張がありません。よって、 大きく脚光を浴びることも少ないのですが、手間のかかることを嫌がらずコツコツと行い、約束を確実に実行し、一歩一歩信用を積み上げていきます。これは見えないところにも細心の注意を払う、決して裏切らないという日本人の精神性に裏づけられたものです。そんな誠実さは、信頼の源泉であり、ビジネスの基本です。そして、信用がなければ社会も成り立ちません。
 愚直な経営をする会社は、イチかバチかの勝負をかけるベンチャー企業でもなく、巧みに消費者心理をコントロールし売上を増やす、金に魂を売り渡した企業とも異なります。接待や宣伝広告に使う費用を節約して、得た利益を社員の能力開発、技術開発や製品開発に投資し、そして内部留保に回して将来の危機に備えます。財務が安定すると心に余裕ができ、経営者と社員の間に笑顔が生まれます。
 虚勢を張らない身の丈の経営なので、無理がなく長く続けることができるのです。
 また、顧客満足は、お客様が心で感じるものです。心を動かせるものは心だけであり、誠実な心が仕事の根本になくてはなりません。社員に誠実さや思いやりの心を植えつけるためには、まず経営者が自ら社員に対して敬意と思いやり、誠実に接することからはじめて、感化していかねばなりません。
 経営者が社員に愛情を注ぎ、愛情を受けた社員が自分の仕事に対して誇りをもって取り組むことで、その心がお客様に伝わり、知らず知らずのうちにブランドが形成されていくのです。

 

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■愚直経営のススメ 全8タイトル
第1回 大智は愚の如し
第2回 人間の尊厳を守る
第3回 愚直経営者の人間的魅力
第4回 日本ブランドの経営
第5回 持ち味を研く
第6回 閾値超えの戦略
第7回 不のエネルギーを活かす
第8回 いい人生の物語をつくる
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